松尾由美「雨恋」

雨恋

雨恋

叔母の気まぐれによって「僕」が住むことになったマンションの一室には、雨の日になると三年前にそこで死んだ女性が現れる。最初は声だけなのだが、彼女が自分が死んだ理由を理解してゆくにつれ足下からだんだん姿が見えてくる、という話。

創原推理文庫で「ブラックエンジェル」を読んだときには二度とこの人の作品は読まないと思ったが、その後何となく読んだ「バルーンタウン」関係のミステリーが秀逸というほか無く、手当たり次第「銀杏坂」や「スパイク」や「安楽探偵椅子アーチー」を読んだらことごとく面白い。この作品も、「ピピネラ」でちょっと失いかけた信用を見事に取り戻す出来で、とても面白かった。相変わらず、非常に繊細な言葉遣いの積み上げが、針金細工のような美しい世界を作り上げ、とても気持ちが良い。猫が素敵な役割を振られてもいて、猫好きにはたまらない。今年の本屋大賞恩田陸氏の「夜のピクニック」だったそうだが、来年は是非この本に受賞してもらいたいものだ。しかし、昨年の「博士の愛した数式」といい今年の受賞作といい、本屋大賞はなにかピントの甘い小説が取るようで、なんとも面白くない。本屋大賞とは関係ないが、この本の帯はいったいいかなることか。「ありえない恋 ラスト2ページの感動」って、なんなんですか。物語がかわいそうなくらいひどいコピーだよ。なんだかラスト2ページまでは感動しないみたいだし、「感動のお話」なんていわれる話はそもそも感動出来ないことを確信してしまう。とっても良い本なのに。