奥泉光「蛇を殺す夜」(「暴力の舟」、「蛇を殺す夜」の二編収録)

蛇を殺す夜

蛇を殺す夜

暴力の舟:全く哲学を理解し説明することができないにも関わらず理想主義に満ちあふれた大学生が、理想と現実を敏感に察知する主人公含めた周囲の学生の中で、喜劇的で悲劇的な顛末をたどる話。

蛇を殺す夜:結婚を前に性的不能に陥った男が婚約者の実家を訪ねる話。

蛇を殺す夜は、初めて読んだときはよく訳が分からなかったが、今度読んでもやっぱり訳が分からなかった。言葉とイメージの展開の素早さに、おいて行かれてしまった気がした。

暴力の舟は、これはとても面白い。一度は学びの喜びに心を打たれたものの、思索することをあきらめてしまい、諦念とともに生きる主人公の描写には妙に実感がこもり、一方で誰からも憎まれてしまう理想主義者の描写は、現実味はないがとても優しい。文章も、このくらいの腰の軽さがあったほうが、奥泉氏の凄みが逆に感じられる。不思議なのだが。