畠中恵「とっても不幸な幸運」

とっても不幸な幸運

とっても不幸な幸運

新宿伊勢丹近くの「酒場」という名の酒場で、客が「とっても不幸な幸運」という箱を開けるたびに訪れる幻覚とそれに続く騒動を、マスターが解決したり単に茶々を入れたりする話。

不思議な小説。箱を開けるとその場の皆が幻覚を共有する、という設定は非現実な世界にあるのだが、そこで展開されるそれぞれの挿話は生々しくも現実的であり、しかも話は決してハッピーでおめでとうという感じに収束する訳ではない。構成もどことなくぎこちなく、非現実的というよりはまるで舞台の上で繰り広げられているかのようだが、物語自体は妙に現実的な冷たさを持つ。「百万の手」に度肝をぬかれ、「しゃばけ」「ぬしさまえ」などではまた違った巧さをこの作者には見せつけられたが、この作品も文句なしにすばらしい。この、肩の力の抜けた語り口が、何よりも気持ちがよい。