笠井潔「ヴァンパイヤー戦争(ウォーズ) (9)」

荒唐無稽な伝記物の第9巻。前巻までのアフリカ奥地探検ものが一応終了し、はじめのころの軍隊・ハードボイルド風な展開に復帰する。相変わらず「権力に無前提にたてつく」ことをせず、「主人公ができれば楽をしたい」不思議なハードボイルドが展開する。

しかし、やたらKGBの蘊蓄が深かったり、ソ連密入国する方法が具体的であったり、登場人物の一人がそれとなくハイデガー批判を口にするところなどは、やはり笠井潔の小説である。結果的にラドラムやフォーサイスのスパイ小説を強烈に皮肉っているようにも感じる。

しかし、サマー・アポカリプスや哲学者の密室と同じ作者とはとても思えない。早く次の新作がでないものか。