南條竹則「猫城」

猫城

猫城

食い詰めた詩人がとある町で猫を助けた縁で猫たちのために猫語の秘伝の巻物を翻訳させられる話。

奇妙に現実味のある舞台に、およそ現実味のない挿話が次々と挟み込まれる。

文章は流麗、牧野信二を彷彿させる独特の言葉遣い、ストーリーはいっこうに進まず、脇道が気がつくと本筋に流れ着く。とても現代人とは思えない、みごとなリズム感がある。

「無為の生活は、やがて来る”冬”の脅威に翳らされているとはいえ、その脅威が遠くにあるうちは、小春日和のごとき幸福に吾輩を導いた。」

「考えてみればそれも当然で、猫は生類であり、しかも人間なぞよりいくぶん高等な生類であり、生類は心を持つ。」

しかしいったいここまで趣味的な小説をどのくらいの人が読むのだろう。東京書籍は偉いなあ。最新作「魔法探偵」にも劣らない傑作。素晴らしいとあらかじめ知りながらの読書は本当に幸福です。