佐々木譲:新宿のありふれた夜

新宿のありふれた夜 (角川文庫)

新宿のありふれた夜 (角川文庫)

歌舞伎町の飲み屋の雇われマスターである主人公の青年は、その飲み屋が閉店するため、最後の夜を常連客に無料の酒と食べ物を振る舞うつもりだった。その仕込み中、若い女性がお店に逃げ込んでくる。腕にけがをしたその女性は、どうやら誰かに追われているらしい。店の外ではヤクザと警察が不穏な動きを見せる中、彼や常連客は彼女の逃亡に手を貸すことを決意する。それは、あまりに壮絶な彼女の遍歴に、強く心をうごかされたからであった。


物語というものは、いろいろな読み方ができればできるほど、僕には興味深く思えます。作者が意図していようがいまいが、そこに厚みと深みを感じさせる、そんな物語が、僕は大好きです。と言いながら、僕が佐々木氏の物語に感じる良さはそれとはまったく逆のもので、作者の力強い物語の世界に、ぐいっと引き込まれるような感覚をとても気持ちよく思っておりました。しかし、本作にはそれとはまったく異なる魅力を感じさせられたのです。

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